ヴェルサイユ宮殿公園内にある大トリアノン宮殿(le Grand Trianon)大トリアノン宮殿(le Grand Trianon)大トリアノン宮殿での

アラクネ

ヴェルサイユの大トリアノン宮殿にある、ルネ=アントワーヌ・ウアス、《ミネルヴァとアラクネ》絵画
《ミネルヴァとアラクネ》手前に見えるミネルヴァが「手にしていたキュプロス産の黄楊(つげ)黄楊(つげ)黄楊の杼(ひ)杼(ひ)杼で、三度、四度と、アラクネの額(ひたい)額(ひたい)額を打った」、『変身物語』、第6巻130行より

大トリアノン宮殿(le Grand Trianon)大トリアノン宮殿(le Grand Trianon)大トリアノン宮殿 (新しいタブで開きます)に展示されているルネ(René)=(-)アントワーヌ(Antoine)・( )ウアス(Houasse)ルネ=アントワーヌ・ウアス(René - Antoine Houasse)ルネ=アントワーヌ・ウアス (新しいタブで開きます)が頃に描いた《ミネルヴァ(Minerve)と(et)アラクネ(Arachnée)ミネルヴァとアラクネ(Minerve et Arachnée)ミネルヴァとアラクネ》という絵画が王族の控えの間(le Salon des Seigneurs)王族の控えの間(le Salon des Seigneurs)王族の控えの間で鑑賞できます。

この絵画は、《ミネルヴァ(Minerve)と(et)ティレシアス(Tirésias)ミネルヴァとティレシアス(Minerve et Tirésias)ミネルヴァとティレシアス》と同様に、《ミネルヴァ伝》というシリーズの一部です。

オウィディウス(Ovidius)オウィディウス(Ovidius)オウィディウス (新しいタブで開きます)が書いた『変身物語(Metamorphōseōn librī)変身物語(Metamorphōseōn librī)変身物語 (新しいタブで開きます)』の第6巻の中で、神に負けないリディア (新しいタブで開きます)出身で、機(はた)織(お)機織(はたお)機織りの技術に優れたアラクネ(Arachnē)アラクネ(Arachnē)アラクネ (新しいタブで開きます)と、知恵の女神であるミネルヴァ(Minerva)ミネルヴァ(Minerva)ミネルヴァ (新しいタブで開きます)との恐ろしい対立が語られています。

『変身物語』の第6巻の記述におけるアラクネ

1 ミネルヴァ女神はこのような話に耳を傾け、詩神ムーサたちの歌と、その正当な怒りとをたたえた。

それから、心の中でこう思った。

「ひとをたたえるばかりでは、意味がない。

わたし自身もたたえられなければ!

わたしの神威がないがしろにされ、それに対して懲罰も加えられないでいるのは許せない。」

じつは、女神は、リュディアの女アラクネを破滅に陥れることを考えていたのだ。 アラクネが、かねがね、機(はた)機(はた)機織り上手のほまれにかけては自分に一歩も譲ろうとしないのを耳にしていたからだ。

この女が世に聞こえていたのは、身分や素姓によってではなく、ひとえに機(はた)機(はた)機織りの技術によってだった。

父は、コロポンの出身で、名をイドモンといい、イオニア産の紫貝の液汁で羊毛を染めるのが、日常の仕事でした。

母はすでに他界していたが、これも平民の出で、その点では夫と同じだった。

が、アラクネは、こんな卑(いや)卑(いや)卑しい家の生まれであり、ヒュパイパという寒村に住んでいたにもかかわらず、その仕事によって、リュディアの町々に名声を得ていた。

彼女のすばらしい業(わざ)業(わざ)業を見るために、トモロス山の妖精(ニンフ)妖精(ニンフ)妖精たちが葡萄園をあとにすることが多かったし、パクトロス河の精たちも、しばしば自分の流れをぬけ出すのだった。

出来あがった織物を見るだけではなく、それが仕上がっていくところを見るのも、楽しみだった。

彼女の技術には、それほどのすばらしさがあったからだ。

まず、粗い羊毛をまるめて毬(たま)毬(たま)毬にする。

20 毬に指をあてて、毛を整える。それから、雲のようにふんわりした毛房を、繰り返し幾度も長く引きのばして、柔らかな糸にする。

なめらかな紡錘(つむ)紡錘(つむ)紡錘を軽やかな手で回す。こうして、柄模様を織りあげてゆく。

――ひとは、彼女に技術を授(さず)授(さず)授けたのはミネルヴァ女神だとさとるだろう。けれども、アラクネ自身はそれを否定し、かくも立派な師匠の名に憤(いきどお)憤(いきどお)憤りをおぼえて、こう言う。

「女神さまも、わたしのわざを競(きそ)競(きそ)競われたらよいのだ、わたしが負けたら、わたしをお好きなようになさるがいい!」

おさまらぬミネルヴァは、老婆に変装する。

こめかみのあたりににせの白髪を植えつけ、衰えたからだを杖で支えたりもしている。

それからこう口をきった。

「わたしの忠告を無にしてはならないよ。 世に機(はた)機(はた)機織りの高名を求めるのもよい。

が、女神には一歩を譲らねば!

これ、軽はずみな娘さん、あんたの言葉にたいしては、うやうやしく許しを乞うがよい!

そうすれば、女神も許しを与えられようから」

アラクネは、彼女をにらみすえると、手にしていた糸を放し、振りあげかけた手をとどめかねながら、怒りの色を顔にあらわして、こう女神に答えた。

「よくもいらしたのね、そんなにも、耄(もう)碌(ろく)耄碌(もうろく)耄碌して、老いさらばえていながら!

長生きしすぎるのも、どうかと思うわ。

嫁や娘さんはいないの?

そんなお説教は、その人たちにするがいいわ!

わたしに忠告ですってね。

それなら、いくらでも、自分で出来るの。

40 お説教が役に立ったなんて、思わないで!

わたしの考えには、変わりがないのだから。

でも、女神さまはどうしてご自分で来ないの?

技(わざ)技(わざ)技比べを避けるのは、なぜなの?」

そこで、女神は、

「もうおいでになっているのだよ!」

といいながら、老婆の姿をぬぎ捨てて、女神の姿を現わした。

妖精(ニンフ)妖精(ニンフ)妖精たちも、リュディアの女たちも、この神をおがめている。

が、アラクネだけは平然たるものだ。

もっとも、顔が赤くはなった。

おもわず、さっと、朱の色が頬(ほお)頬(ほお)頬を染めたのだが、すぐにまた、消えた。

「曙(アウロラ)曙(アウロラ)曙」が現われはじめると、空は紅(くれない)紅(くれない)紅を帯びるが、やがて、日がのぼると、白い輝きに変わってゆくようなものだ。

アラクネは、心を変えなかった。

愚かな勝利を夢見ながら、みずからの破滅へと急ぐのだ。

時を移さず、ふたりは別々の場所に陳取って、機(はた)機(はた)機を据(す)据(す)据え、細い縦糸をそれに張った。

巻き軸に結ばれた縦糸を、葦(あし)葦(あし)葦の茎がより分ける。

指が送り出す横糸が、鋭い杼(ひ)杼(ひ)杼によって、縦糸のあいだへ通される。

通されたところへ、筬(おさ)筬(おさ)筬が打ち下ろされて、ギザギザになったその歯が糸をたたく。

ふたりとも仕事を急いだ。

帯を胸まであげて着物をたくしあげ、巧みな腕を動かしている。

60 精を出すあまり、苦労も苦労ではなかった。

そこには、テュロスの釜で染められた緋(ひ)緋(ひ)緋の色が、少しずつ微妙に異なっていた。

いっそうおだやかな色あいが織りなされている。

日の光が雨滴にぶつかると、虹が大きな弧をえがいて、空のひろがりを彩ることがよくある。 異なったたくさんの色が輝きはするが、しかし、色から色への移り変わりそのものは、見る人にははっきりしない。

ちょうどそれと同じように、いまのばあいも、隣りあったところでは同じような色に見えるのだが、端と端では違っている。

さらに、そこには、しなやかな糸となる黄金が、織りまぜられてもいて、全体では、古い物語が織り出されているのだ。

ミネルヴァ女神は、アテナイの「軍神(マルス)軍神(マルス)軍神の丘」と、誰にちなんでこの地を命名するかという古い争いを描き出している。

十二柱(ばしら)柱(ばしら)柱の神々が、ユピテルを中央に、威風あたりを払って高(たか)御(み)座(くら)高御座(たかみくら)高御座にすわっている。

それぞれの神々には、固有の姿が与えられている。

ユピテルには、王者の威容がある。

海の神ネプトゥーヌスは、すっくと立って、長い三(みつ)叉(また)鉾(ぼこ)三叉鉾(みつまたぼこ)三叉鉾で荒岩を打っている。

岩の裂け目の真ん中から海水がほとばしっているが、海神は、これをおのれの力の証(あかし)証(あかし)証として、この都をわがものにしようというのだ。

そこに描かれているミネルヴァ自身は、盾(たて)盾(たて)盾と、穂先鋭い槍を持っている。

頭には兜(かぶと)兜(かぶと)兜をいただき、胸に神盾(アイギス)神盾(アイギス)神盾で守られている。

80 槍で大地を打つと、そこから、実をつけた薄あおいオリーブの若木が生え出て、諸神たちも驚きを禁じえない――そういう図柄だ。

仕事の最後は、ミネルヴァをたたえている「勝利の女神」ということになる。

だが、ミネルヴァとしては、ほまれを競いあっている相手に知らせたいことがあった。

かくも狂気じみた蛮勇からはどんな報いを覚悟すべきかを、先例によって教えようとおもったのだ。

だから、四隅に、神への敵対行為の四つの物語をつけ加え、それぞれの色で目立たせて、細かな図柄をそれらに配した。

第一の隅には、トラキア生まれのハイモスとロドペを描く。 今では、寒風すさぶ山となっているが、かつて人間であった、自分たちをユピテルとユノーと呼んだ兄妹だ。

第二の隅には、ピグミー族の女ゲラナの悲運が描かれる。

人の子の母でもあった彼女だが、神々と争おうとして、挫(くじ)挫(くじ)挫かれた。

ユノーによって鶴に変えられたうえ、祖国の人たちとも敵対関係をもつはめとなったのだ。

つぎは、トロイアの女王アンティゴネだ。

むこう見ずにも、大神ユピテルの后(きざき)后(きざき)后と争おうとして、女王ユノーによって島に変身させられた。

名にし負う祖国も、父王ラオメドンも、彼女には何の助けにもならなかった。

げんに、彼女は、白い翼に包まれた身となっている。

いまも、かたかたと嘴(くちばし)嘴(くちばし)嘴を鳴らすことで自分の美しさに、喝(かつ)采(さい)喝采(かつさい)喝采を送っているかのような、あのこうのとりが彼女なのだ。

最後に残った一隅は、娘たちを亡くしたキニュラスを描いている。

100 もとは娘たちのからだであった、神殿の階(きざはし)階(きざはし)階を抱きしめながら、石のうえに臥(ふ)臥(ふ)臥して泣いているのが見られる。

いちばん外側を、平和の象徴であるオリーブの枝で囲むと、これで出来あがりだ。

女神は、自分にゆかりの木によって、最後の仕上げをしたことになる。

いっぽう、アラクネが織っているのは、まず、雄牛姿のユピテルに欺(あざむ)欺(あざむ)欺かれたエウロペの図だ。

雄牛も、海も、まるでほんものとおもえるくらいだ。

エウロペ自身はうしろに残した陸地を見やりながら、仲間たちに呼びかけている風(ふ)情(ぜい)風情(ふぜい)風情だ。

寄せる波に濡れないように、おずおずと足を引っこめている。

つぎに、アステリエ。

彼女は、身をくねらせた鷲(わし)鷲(わし)鷲につかまえられている。

それから、レダ。

これは、白鳥の翼の下に臥している。

アラクネは、織り進む。

ユピテルが、こんどは獣神(サテユロス)獣神(サテユロス)獣神に身をやつして、美しいアンティオペに双生児を身ごもらせたこと、アンピトリオンになりすまして、その妻アルクメネを欺いたこと、黄金の雨となってダナエを、火炎となってアイギナを、羊飼いとなってムネモシュネを、まだらの蛇となってプロゼルピナを、だましたこと――そんな場面が加えられてゆく。

海神ネプトゥーヌスも、荒々しい雄牛に変じて、アイロスの娘を籠(ろう)絡(らく)籠絡(ろうらく)籠絡し、河神エニペウスの姿でアロエウスの妻を身ごもらせ、雄牛となってビサルテスの娘をたぶらした。

120 恵み深いみのりの母、金髪の豊穣神(ケレス)豊穣神(ケレス)豊穣神には、馬となって近づき、天馬ペガソスの母、蛇髪のメドゥーサには、鳥となって、あのメラントーには、海豚(いるか)海豚(いるか)海豚となって近づいた――これらの場合、すべての人物たちにその特徴的な姿が与えられ、ふさわしい背景が加えられている。

そこには、アポロンも登場する。

野人の姿をしているかと思うと、隼(はやぶさ)隼(はやぶさ)隼の翼に包まれたり、獅子(しし)獅子(しし)獅子の皮をかぶったりもしている。

マカレウスの娘イッセをだましたときは、羊飼いに化けてもいた。

酒神バッコスも、にせの葡萄でエリゴネを欺き、サトゥルヌスも、馬に身を変えて、半人半馬のケイロンを生んだのだ――これらがアラクネの織り模様でだった。

織物の外回りは、細い縁どりで囲まれていて、からんだ常(キ)春(ヅ)藤(タ)常春藤(キヅタ)常春藤と、花々が織り交ぜられている。

ミネルヴァ女神も、「羨(せん)望(ぼう)羨望(せんぼう)羨望」の神も、この作品に難(なん)癖(くせ)難癖(なんくせ)難癖をつけることはできなかったろう。

男勝りの、金髪の女神には、その出来ばえが癪(しゃく)癪(しゃく)癪にさわった。

130 神々の非行を描いたこの織物を引きちぎると、手にしていたキュプロス産の黄楊(つげ)黄楊(つげ)黄楊の杼(ひ)杼(ひ)杼で、三度、四度と、アラクネの額(ひたい)額(ひたい)額を打った。

かわいそうなアラクネは、こらえきれないで、ひと思いに首をくくった。

哀れを催したミネルヴァは、ぶらさがっている彼女を抱き上げて、こう言った。

「愚かな娘さん、生きていなさい!

でも、ぶらさがったままでいるのよ!

先のことも、安心してはならないね。

おまえさんの一族には、末ながく、同じ懲罰を残しておくのだから」

こういって、立ち去ろうとしながら、魔法の草の汁を彼女にふりかけた。

140 と、たちまちに、不吉な毒薬に触れた髪の毛が、抜け落ちた。

それとともに、鼻も、両耳も落ちる。

そして、頭がたいそう小さくなる。

からだ全体も、ちっぽけなものとなった。

脇腹に、やせこけた指がついていて、脚の代りをする。

あとは、腹ばかりだが、今もその腹から糸を吐いて、昔どおり機(はた)機(はた)機織りに励んでいる。

140 彼女は蜘(く)蛛(も)蜘蛛(くも)蜘蛛になったのだ。

オウィディウス、『変身物語』、第6巻1行から140行までより

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