シュヴェルニーシュヴェルニー(Cheverny)シュヴェルニー城での
ペルセウス

「空高い雲のなかへ飛び上がって」、救おうとするペルセウス
シュヴェルニーシュヴェルニー(Cheverny)シュヴェルニー城 (新しいタブで開きます)の二階にある王の寝室の天井に、画家ジャン・モニエジャン・モニエ(Jean Monier)ジャン・モニエが古代ギリシャ神話の英雄ペルセウスペルセウス(Perseus)ペルセウス (新しいタブで開きます)の生涯を語るさまざまな絵がある。
そのなかには、《ペルセウスとアンドロメダペルセウスとアンドロメダ(Persée et Andromède)ペルセウスとアンドロメダ》も見えている。
この作品の典拠には、ローマ帝国時代に生きたラテン語の作家オウィディウスオウィディウス(Ovidius)オウィディウス (新しいタブで開きます) による最も有名な作品『変身物語変身物語(Metamorphōseōn librī)変身物語 (新しいタブで開きます)』の第4巻末に収められた、同題の章がある。
突然、エチオピアエチオピア(የኢትዮጵያ)エチオピア (新しいタブで開きます)の空を飛んでいたペルセウスが、岩に鎖で繋がれたアンドロメダ (新しいタブで開きます)に出会うことから始まるこの物語をお楽しみください!
『変身物語』の記述における《ペルセウスとアンドロメダ》
663 風神アイオロスは、すでに風たちを永劫永劫(えいごう)永劫の獄につないでいた。
人びとを一日の仕事へと駆り立てる「明けの明星」が、ひときわ明るく輝いて、高空高空(たかそら)高空にのぼった。
ペルセウスは、翼のついたサンダルを取り上げて、両足に結びつけ、鉤状鉤状(かぎじょう)鉤状の剣を腰につけると、足の翼を動かして、澄み切った大気を分ける。
無数の国々が、あたりにひろがって、眼下に置き去りにされていく。
やがて、ケペウスが支配するエチオピアの住民と田野とが、視野にはいる。
ここでは、罪もないアンドロメダが、神アムモンの命令で、不当にも、母親の暴言の報いを受けさせられていた。
乙女が荒い岩に両腕をつながれているのが、ペルセウスの目に映った。
そよ風が乙女の髪の毛を揺り動かし、その目が熱い涙であふれていなかったなら、大理石の像だと思ったことだろう。
見るより早く、われ知らず彼の心は燃えあがった。
並はずれて美しい姿に呆然として、翼を空中にふり動かすのを忘れそうになったぐらいだ。
地上に降り立つと、彼はこういった。
「おお、そんな鎖にはふさわしくないあなただ。 慕い合う恋人同士を結び
680 つける、目に見えぬ鎖こそがふさわしいのに。 お願いだ、生国の名と、あなたの名前とを明かしてほしい! それに、どうして鎖につながれていらっしゃるかを!」
彼女は、最初は黙っていた。
うら若い乙女の身で、男に話しかけるのをはばかったからだ。
もし縛りつけられていなかったなら、純潔な頬を手で覆ったことだろう。
ただ、湧き出る涙で両の目をいっぱいにした。
できることは、それしかなかったのだ。
だが、しきりにうながされると、みずからの不始末を告白したくないのだと思われても困るので、自分の名と国の名を告げ、さらに、母親がどれだけ美貌を鼻にかけていたかを語り聞かせた。
その話のすべてが終わらないうちに、海鳴りがとどろいた。
怪獣の来襲だ。
大海大海(おおうみ)大海のうえに立ちはだかって、胸で海原を覆っている。
乙女は、悲鳴をあげる。
悲しげな父親と、母親とが駆け寄る。
ふたりとも、惨めな思いだが、母親のほうがそうなのは、いっそう当然だ。
自分たちではどうしてやれず、涙にむせびながら、胸を打ちたたき、縛られた娘のからだにしがみついている。
そのとき、旅烏旅烏(たびがらす)旅烏のペルセウスがこういった。
「場合によっては、あなたがたは、いつまでも泣きつづけなければならぬかもしれません。
が、娘御をお助けするのは、いまのこのひと時です。
ユピテルを父として、黄金の雨となってその身を孕ませた、監禁中のダナエを母として生まれたこのペルセウス――蛇髪のメドゥーサを退治し、翼を動かして、勇ましくも天空を駆けて来たこのペルセウスが、娘を所望したなら、きっと、わたしは、誰をも避けて花婿にと選ばれるでしょう。
が、かくも多くのほまれのうえに、さらにひとつの勲勲(いさおし)勲をつけ加えたいと思うのです。
もっとも、それには神助が必要でしょう。
700 ともかく、わたしの勇気によって娘が救われたなら、娘を頂戴頂戴(ちょうだい)頂戴する――このことで合意しましょう」
両親は、この条件を受けいれた。
思うに、ここで躊躇躊躇(ちゅうちょ)躊躇する者は誰もいまい。
ふたりは、ひたすら懇願し、くわえて領国を持参金にしようと約束する。
見ると、どうだろう! 快足の船が汗みどろな若者たちの腕で漕ぎ進められ、舳先舳先(へさき)舳先についた衝角衝角(しょうかく)衝角で波を分けるように、怪獣は、胸をぶつけて波を分けている。
バレアレスの島民の、名にし負う弩弩(いしゆみ)弩が回転する鉛弾を放った場合の、その射程距離くらいの間間(ま)間を置いて、怪獣が巌巌(いわお)巌に近づいたとき、突然若者は足で地を蹴って、空高い雲のなかへ飛び上がった。
海原のおもてにその影が映ると、獣は荒しくその影を襲った。
そして、ユピテルの愛鳥である鷲鷲(わし)鷲が、青黒い背に日を浴びている蛇を広野に発見して、背後からつかみかかり、狂暴な敵の牙牙(きば)牙がうしろへねじまげられはしないように、鱗鱗(うろこ)鱗におおわれた蛇の頸に、血に飢えた爪を突き通す――
720 ちょうどそのように、ペルセウスはまっさかさまに虚空を舞いおりて、唸唸(うな)唸り声をあげている獣の背を襲い、柄柄(つか)柄も通れと、剣をその右肩に突き刺した。
深傷深傷(ふかで)深傷を負った怪獣は空中高く突っ立ったり、水にもぐったり、あるいは、まわりから犬の群に吠えたてられて恐れをなした獰猛獰猛(どうもう)獰猛な猪猪(いのしし)猪さながらに、あばれ回る。
ペルセウスは、あるいは、尾が大そう細くなって魚の尻尾のようになっているあたりであれ、むき出しになったところなら、ところかまわずに、
鉤形鉤形(かぎがた)鉤形に曲がった剣で切りつける。 怪獣は、
紅紅(くれない)紅の血の混じった潮水潮水(しおみず)潮水を口から吐く。
そのしぶきで、ペルセウスの翼が濡れて重くなった。
水を吸ったこのサンダルを、これ以上あてにすることはできなかったが、ふと見ると、岩がある。
波が立たなければ、頭を出しているが、海が騒げば隠れてしまう。
この岩に足を乗せて、その背の端を左手でつかまえながら、三度、四度と繰り返して、獣の下腹に剣をさし通した。
拍手と歓呼が海辺にあふれ、空高い神々の宮居にまでとどいた。
母カッシオペと父親ケペウスは大喜びし、婿婿(むこ)婿としてのペルセウスに敬意を表し、彼を、家の頼りであり、救い主であると宣言した。
この怪獣退治の褒賞褒賞(ほうしょう)褒賞であり、その原因でもあった乙女も、鎖を解かれて、進み出る。
740 ペルセウスは、勝利をかちとったその手を、汲んだ水で洗った。
そして、蛇髪の頭頭(こうべ)頭を固い砂地で傷つけないようにと、葉を敷いて地面を柔らかくして、海草の枝を散らしてから、そのうえにメドゥーサの首をのせた。
と、髄に水を含んでまだ生き生きしていた新鮮な枝が、怪女の魔力にかかり、この首に触れたかとおもうと、固くなって、枝の部分も葉の部分も、不思議な硬直のさまを呈した。
さて、この驚くべき現象について、海の妖精妖精(ニンフ)妖精たちが、もっと多くの枝で実験を試みた。
すると、やはり同じ結果が生じる。
これに大喜びした彼女たちは、その海草の種子を、いくども波にまきちらした。
こうして、今もなお、珊瑚珊瑚(さんご)珊瑚にはこの同じ性質が残っている。
764 大気に触れると硬直し、水中では柔らかかった枝が、海から引きあげられると、石のように固くなるのだ。